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TWS-Emerging 2016
大杉好弘「不確かな現実、確かなイメージ」

 1年前まで無彩色の凍てついた林や山や海の光景を描いていた大杉好弘の絵には、
シュルレアリスムの空想世界に通じるものがあった。ところが新作は生粋リアリズム。
自宅や仕事場のスタジオなどになにげなく置かれたオブジェが題材だ。若手アーティ
ストの千葉正也とテーマの近接を指摘できるものの、絵画への姿勢はまったく異なる。
油彩だが、水彩のような淡いパステル調の色彩で描かれた机上の日用品は、ジョルジュ
・モランディも想起させる。
とはいえ、最近まで実物を見たことがなく、好きだがとくに気にかけていた作家ではな
いという。
 描く行為を、芸術を手掛けるといった緊張感や特権から解き放ち、砂場で子供が遊ぶ
ような、たんなる日常の活動に並置させたのが、大杉の新たな制作コンセプトだ。別室
に、お愛嬌で作ったかのような小鳥の陶器も展示しており、プロとアマチュアの垣根を
取り払って、肩を張らない創作態度を実証する。トークの際に会場で、彼のこうした姿
勢を「アンチアートですね」と言ったのだが、芸術という概念を無化する場から出発し
ているのだから、汎芸術、あるいは日常芸術と言ったほうがいいのかもしれない。
 明るく平和な画面には、現代の恐怖とか先行きの不安感などの思わせぶりなジェスチ
ャーは完全に払拭されている。特別な理由はなく選ばれ、記録された日々の一場面は、
ささやかであっても作家にとってのかけがいのないリアリティであるがゆえに、確かな
空気感と時間性を有している。すべてを捨てきったすがすがしい清涼感は、何かの始ま
りを予感させ、天下無双の構えが、一つの勇気と自信を示唆している。
 
岡部あおみ(パリ日本文化会館 展示部門アーティスティックディレクター)
 
この講評文は、「TWS-Emerging 2016」のプログラムの一環として執筆していただきました。



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